杉山病院インタビュー記事

杉山病院/医療法人社団 賢仁会

副院長 白濱龍太郎

Profileー
筑波大学卒業、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了(医学博士)。同大学睡眠制御学快眠センター等での臨床経験を生かし、総合病院等で睡眠センターの設立、運営を行ってきた。それらの経験を生かし、睡眠、呼吸の悩みを総合的に診断、治療可能な医療機関をめざし、2013年に、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニックを設立。2014年には、経済産業省海外支援プログラムに参加し、インドネシア等の医師たちへ睡眠時無呼吸症候群の教育を行った。2018年にはハーバード大学公衆衛生大学院の客員研究員として睡眠に関する先端の研究に従事。社会医学系指導医、睡眠学会専門医、認定産業医を有し、教育、啓発活動にも取り組んでいる。

資格
医学博士/産業医

白濱先生が医師になられたきっかけ教えてください。

医師という職業が選択肢の中に芽生えてきたのは、高校生ぐらいからですかね。家族の中にも病気が多かったというのもあり、人の生死に関わるような仕事をしたいという気持ちがうっすらありました。結果、医者になった時も、どちらかというと救急寄りの、救命救急に近いような場所におりました。その状況の中で、肺・呼吸器系の専門医として、そういう疾患を診ていきたいという思いがありました。

バックグラウンドとしては、うちの父親もドクターで、自衛隊の医者だったんですね。ちょうど初期のPKOでカンボジアに行って、現地で活動していました。それこそ「ここ地雷注意」と書かれた看板みたいなものをお土産で持って帰ってくるとかありました。
父自身が一般開業医みたいに診療してる姿を見て、それに憧れてっていうことでは全くなく、いろんな世界のことを話してくれる中で、本当にこの世界中あらゆるところで医療は必要とされているということが分かりました。

日本は安全で恵まれてるけれども、一個人が病気になると人生は一変してしまいます。その手助けができる仕事、関わっていける仕事をしていきたいという気持ちが非常に強かった。

この地域に関わることにした思いはなんでしょうか?

私は東京で生まれ育ちました。人口も多いので当然病気にかかる方も多い。必然的に医療機関も非常に多い。ただ、どこの場所でも同じような医療を受けられるかというと、そんなことはない。東京以外の関東圏を見てもそうです。横浜・新横浜でも仕事をしてますが、それはいろんな方がアクセスしやすい場所というのを考えてのことです。東海道エリアからいらっしゃる方も多い。睡眠医療や睡眠時無呼吸症候群の専門医は全国的にもとても少ないので、新幹線の駅から徒歩の距離で医療提供できることが利点です。

静岡県沼津には、おそらく20年近く医師として関わっています。病院の当直のドクターとしてだったり、次いで外来をやったりとかですね。少し運営側に関わることもありました。
沼津に長く関わったからには、静岡県もとても広いので、できるだけちゃんとした医療を提供することを目指していきたいなと思っています。

白濱先生の理念について聞かせてください

はじめは救急医療に従事していました。ではなぜ睡眠医療にシフトしていったのか。「睡眠時無呼吸」という症状があります。実は私たちの体にとても大きな影響を与えるにも関わらず、その事実があまりにも知られてはいなかった。その症状を重大な病気として捉えてはいないという部分を、医療現場で強く感じた時期がありました。

例えばアメリカでは、国民のパフォーマンス、ひいては国としてのパフォーマンスは「睡眠に紐付いている」ことが1980年代からすでに知られていた。スペースシャトルの打ち上げ失敗や、チェルノブイリ原発事故で被害が大きくなった背景などには、実は睡眠障害が関わっていたんです。初動や色んな対策が遅れた背景には、睡眠のトラブルがあったという報告書があるんです。そういう事実を我々はあまり知りません。当時もですが、10年や15年前でもアメリカの学会には本当に限られた日本人のドクターしか参加できていませんでした。
ならば私がと、救急の現場から場所を変え、睡眠の質を向上させることにしました。さらに突き詰めてやっていきたいなと考えています。

最近ではスリープテックといわれるような産業、つまりビジネス的な側面も出てきました。また基礎研究というのはとても面白く、睡眠のメカニズムなど様々な研究がされています。

ただ、実際に悩んでいるのは患者さんです。治療もそうですし、そもそも治療まで至らなくとも、寄り添って何かその患者さんの生活の中で、変えられるものがあれば変えることによって良くなることがあります。睡眠の質をあげることで、例えばうつ病の方が薬が必要無くなったり、職業ドライバーの方が安全な運転、免許の更新を問題なくできるようになります。研究や産業も大切ですが、私自身は患者さんと向き合い、ちゃんとした臨床に取り組んでいきたいと考えています。

治療方針や優位性などはありますか?

睡眠障害というカテゴリーとして診た時、当然確立されたガイドラインがあり、それぞれの症状に応じた対処法は決まっています。ただ、睡眠は100人いたら100人それぞれの生活の上に成り立ってる。人生のステージにおいて、20代なら20代の眠りを妨げるような生活、30代、40代、50代、抱えるもの、家族や仕事に対する向き合い方を含め、色んなことがある中での24時間なわけですよね。そのような中でも、短い時間ではありますが睡眠は取らなければいけない。なぜ睡眠時間が短いのか、寝つきが悪くなってしまうのかしっかりとヒアリングします。そして診断をつけるため終夜睡眠ポリグラフ検査など、確立された検査をします。もちろん前段階の自宅でできる検査もあります。いずれにしてもそのような客観的な検査結果と問診を合わせ、まずは診断していきます。

医師によっては、血液データだけ見て患者さんの顔を見ずに薬だけ処方される人もいますよね。確かに間違いではないと思います。私が大切にしていることは、やはりその患者さんご自身の生活がどうなのか、その生活の中に改善すべきところはないかを考え、ご提案します。一例ですが、今の世の中スマホをよく見ますよね。好きで見ているというより仕事で必要だったりしますよね。ただ、YouTubeやtiktokなど、見てはいけないわけじゃないけれども、そういったプラスアルファの部分をその人がそこにどのくらい時間を費やしているかによっては、意識してセーブすることがプラスに転じることがあります。

簡単に薬を出す、決まった治療法を提案する、データだけ良くなりました、ではだめなんです。症状が良くならないといけない。予防医学につながっていきますが、その患者さんによって原因は様々であるため、その究明と改善を心がけています。

目指すビジョンなどありましたら教えてください

睡眠・睡眠時無呼吸症候群に関して、重要性やある程度自己解決できるための術を、子どもであれば学校で教えてもいいと思っています。多くの方が睡眠の重要性は理解されています。8時間は寝なきゃと昔は親にも言われたと思うんですけど、なぜ寝なきゃいけないのかを考えられず、まあ寝た方がいいんだろうなと考えていたと思います。
では、いざ新型コロナウイルスに感染したとします。感染したら何をするかと言うと眠りますよね。それも家族みんなに強要する。

同じように風邪を引いたら体を治すためには寝るわけですよね。しかるべき薬も使うこともあるかもしれないが、基本は寝て治しますよね。寝ることに対してすごく分かりやすい効果としては、体を治す、免疫をコントロールするという力があったりします。様々な病気にかかることがありますが、治療のため来院された際などに眠ることの重要性を知っていただく、腑に落ちるよう大切さや方法論を患者さんに伝えていく。そのためにこのような取り組みをしています。


また、睡眠医療が足りてないエリアかつ自治体がそこに対して目を向けている場所がちらほらあるんですけれども、そこで、ある取り組みをさせて頂いてます。北陸地方の福井県、また福井大学の医学部、もう少し後には市など地域行政も加わり行っている取り組みです。
具体的には、睡眠と運動・栄養っていうのを5カ年計画で調査して介入して変化を見ます。それを応用していく。今年は100名の県出身のアスリートに対して、睡眠を評価できるような小型デバイスを県の予算で配り、毎日つけてもらいます。まずベースの状態でアスリートがどういう睡眠の特徴を持っているのか、運動・栄養の特徴を持ってるのか、そこに対して専門医が介入をすることによって、どれだけ具体的に良くなるのか検証していきます。
その他、企業さんから音楽や香りの提供をしていただいたり、福井県産の発酵食品、ノンアルコールの甘酒を使い、25人ずつを3組に分け介入方法も全部変えた場合はどう変化するのかなど調査します。それを今度は、2024年にマラソン大会が開催されるんですが、全てはできないですけれども、一部の参加者に同じような調査をしてどうなっていくのかを同じように検証します。
いろいろなご縁もあり、今では数多くの場所で関わらせていただいています。ご縁を大切にして、アカデミア・教科書的なことだけではなく、臨床もやり、様々なことを織り交ぜ、向かうところは予防医学の部分で関わっていきたいと考えています。それがやりたいことと言いますか、やり続けていきたいことですね。

白濱先生からのメッセージ動画はこちら